BART(1997.10.27)"現状把握が、いまいちできてないんです、私"

映画やドラマはもちろんバラエティ番組でも、女優・菅野美穂は表現者であることを求められる。だが最も難しいのは、おそらく「ありのままの自分」を演じることだろう。そんな至難の表現に挑んだ"清純派女優"の確信と、写真集騒動で発見したこととは?


役ではない名前で何かする時ぐらい、自分の考えを通してみたいって・・・。


  • 「天性の女優」の評価と現実のギャップ

    撮影後、どんな気持ちで臨んだか聞くと「なーんにも考えていなかった」とカラカラ笑ったが、その無意識こそが、ただ者ではない。ふと「女優の性(さが)」

    という形容が浮かぶ。デビュー4年半にして、彼女が主役もこなせる数少ない若手女優の位置を掴んだのには、運も努力もあったろうが、それを決定し

    たのはその「性」のせいだと思えてならない。しかし弱冠20歳の彼女にはどうやら「天性の女優資質」という周囲の評価が思いのほか重いらしいのだ。

    この初夏に会った時も「最近(演技を)褒められすぎって感じで、何か違ってます。きっと失敗しない道ばかり選んでるからなんです」と、訴えるように語っ

    ていた。その頃、彼女の中では、すでに"役"ではない"素"の自分を探る試行が始まっていたのだろう。「こういう仕事をしていると大人の役者さんたちか

    ら話を聞く機会も多いですし、役のうえで疑似体験するということもあって知識の広がりっていうのもそれなりについてくるっていうところがあるんです。で

    も、どんなに素晴らしいことを教えていただいても、それはその方の経験を通したもので、私の経験から生まれたものじゃないですよね。でも、知識とし

    てあるから頭で納得しちゃう。私、絶対頭でっかちになってます。」こんな思いに至ったのは、昨年大学に進学したことも大きいようだ。「大学の友人とか

    見てると、経験というか、身体を動かして五感を働かせてるなって気がする。それに反して、私は物事を計算で判断してるなあって。私の友達って、みん

    な"ノリ概念"の人で、思いつきが思いつきを呼んで面白い体験をいろいろして、人生楽しそうだなって思うんです。テンション高くて細胞分裂が活発な感

    じで、ほんと、いいなーって。私?私は"ネタ概念"の人間。お仕事で台本をもらうと、勉強勉強・・・。いったんドラマに入れば役中心の生活で、それにど

    っり浸かってる。普段の自分と仕事している時のギャップをいつも感じていたんです。だから、せめて役ではない自分の名前で何かする時くらいは、自分

    自身の考えを通してみたいなって」

  • 思考を超えた反応でもプラスに転じる力

    彼女にとって今回の写真集は、虚構の世界と現実の自分を切り離すための"儀式"だったのかもしれない。しかし、世間はセンセーショナルな話題として

    それを受けとめた。ただ、この反応は初めからある程度予想できたことではないかとも思えるのだ。自分自身が決定したというこの作業の過程で、彼女

    の頭のどこかに、「影響」や「波紋」といった文字がかすめたことはなかっただろうか。マスコミが過剰に反応し、本来快く迎えられていいはずの作品作り

    が、歪んだ取り上げられ方をされたとしても、それだけの影響力を持つ立場にあることの「責任」は、どうしてもついて回る。本人の純粋な思いにかかわ

    らず、それが、マスメディアに生きる人間の宿命ではないかと思うのだ。

    「問題はそこなんですよ。ほんと私にはよくわからない反応が沢山あったんですよ。でも、事実とあまりに違うから『ふーん』って感じで、あまり気にしませ

    んでした。ただ、そんなふうにしか受けとめなかったってことで、自分は現状把握がきちんとできてないのかもしれないと思ったんです。だって、落ち込ん

    だりヘコんだりするってことは、物事とちゃんと向き合って真剣に立ち向かおうとしていることの証じゃないですか。私はそう思えなかった。・・・結局わか

    ったのは、私は"神経図太いヤツ"かもしれないってことでした。」とは言うものの今回のことで彼女はずっと手に入れたかった"等身大の経験"を体感し

    た。

    「自分の選んだ道なら、失敗したり嫌なことがあってもそこで得られるものは必ずあるはずだし、後悔はしてません。逆に、人に選んでもらってマイナス

    があったら、逃げ道を作ることになるし、心残りが尾を引きますよね。でも、タレントさんとか、表にでる人はみんなそうだと思いますが、結局何でも自分

    に返ってきますから、初めから自分で決めて臨むほうがすがすがしいと思います。」

  • "大器"に水を注ぐ役者・菅野美穂の今後

    何はともあれ、10代最後の決断の結果は、20代のスタート地点に立った彼女に引き渡された。これをどうバネにしていくかは本人次第だが、少々写真

    集の話題が先行して、役者としての彼女の行方が気にかかる。今後のドラマの予定を見ると、10月に単発が1本、11月には2本。それが終わると来年1

    月スタートの連続ドラマも決定していて、ますます勢い盛んなのが嬉しい。また久しぶりに映画出演の話題もある。10月10日公開の『ご存知!ふんどし

    頭巾』(全国シネマジャパネスク系)がそれで、菅野は主演の帆立沢小鉄(内藤剛志)の娘を演じる。しがないサラリーマンの小鉄は、ある人物との出会

    いから正義に目覚め、「悪いことは悪いと言わなければいけない」と思い立ち、ふんどしを被って世の中の悪に立ち向かう。「何が社会正義なのかとか、

    難しいことはわからないんですけど、この映画の中でふんどしはメタファーだと思うんです。匿名希望でしか言えないこともあるだろうけど、みんな正しい

    ことは自信を持って堂々と言いましょうよっていうね」テーマもメッセージもきちんと捉えている。作品の中心人物ではないが、何気ないシーンでの演技が

    キラキラ光る。こう言うと、彼女はまた「褒められ過ぎ」だと言うのかもしれない。けれど決して「過ぎ」てはいない。"素"の菅野が思っている以上に、今、

    大器を埋める水を貪欲に欲しているのは役者・菅野美穂ではないかと思うのだ。


    菅野が、インタビューで『走らんか!』の視聴率が芳しくないことについて聞かれたとき
    「こんな事を言っちゃ 身も蓋もないんですけど、ドラマづくりの醍醐味って視聴率とは別のところにあると思うんですよ!すごく信念を持ってドラマづくりができているし、手間暇・時間をかけて」
    って開き直ってたのを思い出しました(笑)。今回の「現状把握がきちんとできてないのかもしれない」発言も菅野流の開き直りなんでしょう。角、曲がったね(笑)
    話は変わるけど、「主役もこなせる数少ない若手女優」っていうのは、ちょっと誉めすぎじゃないかなと思いました。ちゃんとしたドラマ(学園ものは除く)では主役を張ったことがないわけだし。勿論「主役もこなせる若手女優の最有力候補」であることは間違いないけどね。それから、『ふんどし頭巾』なんだけど・・・ヘコみました。正直言って『愛する』の酒井美紀のほうが良かった。

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