JUNON(98.11)CINEMA ANTENNA〜『落下する夕方』〜

 この秋公開の映画『落下する夕方』のヒロイン・リカ(原田知世)は、一年間も一緒に暮らした恋人・健吾(渡部篤郎)から、突然、別居を切り出される。他に好きな子ができたのだという。それが華子(菅野美穂)。周囲の誰をも嵐のように巻き込んで、その不思議な魅力の虜にしてしまう彼女は、ある日、突然・・・、健吾が出ていったあとのリカの部屋に住みついてしまう。あきれながら、いつか華子を受け入れていくリカ。 3人の奇妙な関係が始まる・・・。
 この華子に扮する菅野美穂がメチャクチャいい! これで女優としてさらにブレイクすること間違いなし!って感じだよ。

女優さんならみんながやりたがる役

 私が演じた幸子っていう役は、女優さんなら、みんなやりたがる役だと思うんですよ。私自身、台本をいただいて1回読んだだけで「ウワーッー」って興奮してテンション上がっちゃって、幸子が大好きになっちゃった。

 彼女の魅力っていうのは、ホントに3歳児の子供と同じくらい、自分の心のままに自由に素直に行動して、我慢したり、待ったりっていうことを絶対にしないところだと思うんですよ。恋愛に関しても、モラルが普通の人と全然遣うっていうか、目が合って、いいなと思ったら寝ちゃうし(笑)、相手を束縛しないし、されたくない。とにかく子供みたいに気まぐれな女の子だし、自分が好きなものにしか関心がなくて、でも興味があるものに対しては「取って食うぞ」くらいの感じで(笑)。それは人間だけじゃなくて、好きなものっていう意味では、人も音楽も物も同列なんですよ。

 私自身の恋愛ですか?う−ん、自分に生活力があるから、最悪の一場合、どうにでもなると思ってるから・・・って感じかなあ(笑)。でも、恋愛が始まったら、もうその時点で、自分のやりたいことの全部ができなくて当たり前ですよね。そこでぶつかりあってケンカや、歩み寄りがあったりするんだけど。幸子の場合は、つきあおうが共同生活しようが、「ルールは私」だから(笑)。普通はそんな人、周りから嫌われるじやないですか。華子はそれでもなお、人を魅きつけてやまないんですよね。

 だからすごいんですよ。この役って存在感がすべてだから、周りの人からは「よく引き受けたねぇ」と言われて。「そうか、ヤパイのかなあ・・・」と思ったんですけど、そう言われたときは撮影も進んでたんで、「頑張ろう」と(笑)。でも、実際に現場で演じていて、これで正解なのかな っていうのは、すごく怖かったですね。幸子の感性って、尖ってるんだけど、なんか弱いというか。そういう10代の感覚を思い出したりしてたんですけど、監督の合津さんがいつもニコニコしてくださってたんで、それが何よりのアドバイスのように感じてました。

一番好きなのはリカと華子の海辺の場面

 自分は、その役になりきる憑依型の女優ではないんで、ただもう好きになって、理解して、この子はどうなっちゃうんだろうって客観的に見てたっていうか。撮影が進むにつれて、ツルツルとほどけるように幸子のことがわかってきました。「だからこの子はこういうことを言うんだ。ただのいい加減じやないんだ」「尖って見えるけど、すごくもろくてこんなふうにしか生きていけないんだな」とか。私がリカの立場だったら、もう、最 悪ですね。だって家に帰ったら華子がいるんですよ。ご飯とかも私が作るんでしよ?絶対イヤだなあ(笑)。

 ただ、ああいう3人の恋愛関係って、私はあってもおかしくないと思います。なんかもう恋愛なんかしなくても、楽しく生きていけるじゃないですか。語弊はあるかもしれないけど、私は同性愛の人のほうが恋愛に関しては高尚だと思うんですよ。なんか子孫を残さなきゃとかっていう本能を超えたところでの、純粋な恋愛の形って感じがして。それに近いものを、私はこの3人の関係に感じるんですよ。

 私の一番好きなシーンは、華子が人に弱いところを見せないように、人と関わらないようにしてたのに、り力と出会ったことで、言えなかったことを言えた海辺のシーン。華子の中で抱えきれなかった大きな傷を、り力は分析したり、同情したりするんじゃなくて、ただ、「ああ、そうなんだ」ってまるごと受け止めてくれた。だから、スーツと消えていけた。そしてリカと出会う前から幸子の運命、死は、・・・決まっていたような気がします。


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