TelePal(1997.12.25)「初めての体験。演じながら、せつないと思うこともありました」

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写真集『NUDITY』で世間を騒がせた彼女は同世代の女優のなかでも1,2を争う演技派だ。今回のドラマで挑んだのは聴覚障害者という難役。また一段、演技の幅が広がった−。

インタビューをするにあたり、彼女と正面から向かいあったとき、あることに気づいて驚いた。撮影も併せて行われるというのに、彼女はほどんどノーメークだったのだ。

それでも目の前にいる彼女は、テレビのブラウン管を通して見る彼女となんら変わることはない。色白の肌、大きな瞳には、やや愁いをおびた光が宿る。

女優・菅野美穂、20歳。娘役から大人の女性の役へと移行する、微妙な変換期を彼女は迎えている。

そんな菅野さんが、これまでにない難しい役柄を通じて大人の女性を演じるのが、12月15日(月)にテレビ朝日系で放送されるスペシャルドラマ『君の手がささやいている』(夜20:00〜)。

生まれながらの聴覚障害というハンディキャップを背負いながらも、ひたむきに生きる女性・美栄子(菅野)と、彼女に純粋な愛を傾ける青年・博文(武田真治)が周囲の反対を乗り越え、結婚するまでを描いたヒューマン・タッチなドラマだ。

菅野さんは、一切のセリフはなく、この聴覚障害者の役を手話と表情だけで演じることになる。

「今回の役を演じるにあたって、実際に耳の不自由な方にお会いしたいと思っていたら、それはスタッフの方も考えていてくださったみたいで、そういう場をもうけていただいたりとか、手話の勉強会もありました。ただ、私は(手話を覚える)分量が多く、初めてのことだったものですから、その前に何回か時間を作って教えていただいていました」

この彼女のコメントは、原稿を書く際にきれいにまとめたものではなく、彼女の口から発せられた言葉を一字一句変えることなく、そのまま書き出したもの。

取材だからと無理して丁寧な言葉をつかったのでないことは、一度質問の意図を頭の中で整理しながら答えてはいても、滑らかに流れる彼女の口調から理解できる。もちろんだれに対しても、極端に丁寧な話し方をするとは思えないが、少なくとも初対面の人間と相対するときには心がけていることなのだろう。

とくに菅野さんの場合は、10代から大人に囲まれて仕事をする環境に身を置いていただけに、そういう意識が強いのかもしれない。彼女の真摯な姿勢は、手話の練習に費やした期間を尋ねたときにも感じることができた。

「手話はですねぇ・・・・・全部で1週間ぐらいだったと思います。もう少し短いかなぁ・・・・・4〜5日かもしれないし。すいません。きちんと覚えてなくて」

自分を顧みると4〜5日と1週間の誤差を深く考えることなど、まずないといってもいい。ましてや、なにかの練習に費やした期間となれば曖昧となるのも当然だと思うのだが、彼女はその誤差を曖昧なものとすることを潔しとしないのか、はたまたインタビュアーの顔が恐くて明確にする必要があると感じたのか。それは彼女のみぞ知ること。

冗談はさておき、手話で演技することの苦労を聞いてみた。

「ケンカしたりするシーンは大変ですね。目線が外せないというか・・・・・。相手の気持ちを読み取るのは唇の動きと手話だけですからね。目を伏せてしまうと、相手との間に壁ができてしまってケンカが成立しない。お互いが思っていることをぶつけあおうとしてもできない・・・・・難しいですよね。相手の表情とか、その場の空気の動きみたいなものだけで自分なりに解釈して、選んでいくことになってしまうので傷つかなくてもいいことで傷ついてしまったり。変に感じすぎてしまったり、見えすぎちゃったりして・・・・・演じながら、せつないなと思うこともありました」

以前、聴覚障害者と健常者の恋愛を描いて高視聴率を獲得したドラマに、酒井法子主演の『星の金貨』と豊川悦司主演の『愛していると言ってくれ』の2作品がある。その作品の中で印象深かったは、手話を行うときの手の動き自体に感情がこめられていたことだった。

「これって言っていいのかなぁ・・・・・。手話の先生が『表情と手話の両方に感情を入れてください』って教えてくださったんですけど、そうするとなんとなく手話講座になってしまうなと思ったり。美栄子という女性は、日常生活の中で長いこと手話を使っている設定ですから、もっと曖昧であってもいいんじゃないかと思うんです。嬉しさの表現にもグラデーションがあると思うし・・・・・。手話は大まかなところは伝えられるんですけど、細かい部分までは伝えられないんです。聴覚障害のある方とお会いしたときに思ったんですけど、耳の聞こえない人たちは、微妙なニュアンスを感じとって、周囲のことを理解しているんだなということがわかったんです」

一切セリフのない役柄を彼女がどう演じるのか非常に興味深いが、それとともに注目すべきは、ドラマのテーマである障害者と健常者の恋愛と結婚。菅野さんは同じ女性として美栄子の恋愛を、どう感じ取ったのだろう。

「恋愛という部分では健常者の人に向かうときも、聴覚障害のある人に向かうときも、たぶん一緒だと思うんです。でもそれが結婚ということになると、相手の家族にとっては、耳が聞こえないということが枷でしかないと思われてしまったり・・・・・。やっぱり想像もできない世界だと思うんですよ。耳が聞こえないってことは。親心として自分の息子に枷のある結婚はさせたくないと思うだろうし。逆に恋愛というふたりだけの部分では純粋ですよね。言葉のないところでコミュニケーションをとっていくわけだから、すごく繊細な関係になるだろうし、耳が聞こえる人同士の恋愛よりも味わいがあると思うんですよ。それは演じていて、すごく感じることでした」

と恋愛の話になったところで、彼女自信のホットな話題を・・・・・とも思いましたが、惜しいかな、タイムアップとなってしまった。

少女から大人の女性へと変わりつつある彼女の、ふとした表情の変化をドラマの中で発見する。そんな楽しみ方があってもいいんじゃないだろうか。


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